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昨日まで知らなかったあのひとのことをほら、もうこんなにも意識し始めている。






反射する鈍い光






(あ、いた)

片腕に書類を抱えて歩くきみ。昨日までは名前も顔も知らなかったひと。何でもっと早く知り合わなかったのか。自分の鈍さに腹が立つ。知り合う、という言い方は少し変かもしれない。あたしが一方的に知っているだけのようなものだから。彼が私の顔を覚えてくれている確立なんて限りなく0に近い。こうしてあたしみたいに少しの好意でも無い限り。




「あら」


わかってはいたものの、昨日この時間、ここ十一番隊の隊舎で会った彼はいない。ただここで出会ったリアルな感覚だけが、あたしの体に、





「檜佐木がいないからってあからさまに残念な顔しないでくれる?」
「なっ!別にそんなこと関係ないって」
「隠してもバレバレなのよ。昨日のあんたといったら茹でた蛸みたいにかーって赤くなって」
「わー!もうやめて!!」


あたしは隠し事というのが苦手で頭が透けてるのかってぐらいわかりやすいといわれる。たぶん彼にもバレているんじゃないだろうか。だからってこの気持ちにブレーキをかけることなんて絶対無理。だって扉の向こうに感じる気は、








「恋次、ただいま」
「おう、お疲れさん」



(あ、目が合った)

「あ、昨日の」
「こ、こんにちは檜佐木さん」
「あれ?知り合い?」
「まぁな。六番隊だったんだ」
「はい。うちの恋次がお世話になってます」
「お前はいつから俺の親になったんだよ!」



どきどきした心臓を、上がっていく体温を、緊張して震える声を笑うことで紛らわせようと必死だった。 共通の友達の話をしている二人についていけなくなっていたら恋次が話を振ってきてくれた。その度に彼はこっちを向く。今の自分の顔可愛くないとか、もっと違うことを言えばよかっただとか後悔して。この息苦しさから早く開放されたい、そう思った。









「そろそろ次の隊行くわ」
「また今度飯奢ってくださいよ」
「は?お前の奢りの間違いだろ」
「ひでぇ!」



ほ、と一息ついたらもう行ってしまうんだって寂しくなってきて、もっと話したい、もっときみのこと知りたい、あたしのことも知って欲しい…どんどん欲張りになっていく。この間まで会えるだけでよかったのに。でも今はこれでお腹いっぱい。突っ立ったまま彼の消えたほうをいつまでも見つめているあたしの気持ちを鈍感な恋次でも気づいているんだろうな。




「じゃあまたな、恋次。それから、







名前を呼ばれただけ、それだけでこんなにも嬉しいなんて!
今夜は、眠れそうにもない。





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2005/9/8   







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