いつもと同じトーンで話しかけてきた修兵に非はこれっぽっちもない。あれはあたしが悪かった。「恋次」という名に異常なまでに反応したあたしが。
「ー、恋次携帯変えたみてーでよ、番号教えてくんね?」
あいつの事なんか知ったこっちゃない。
hide-and-seek
あぁこの幸せが永遠に続けばいいのに、と周りにバラを撒いていたあの乙女だった頃に戻りたい。あいつの腕の中はいつも温かかった。本当に毎日が幸せだったのに。ある日あいつの家で女とハチあわせ。ふーん、あたしって遊びだったんだ。妙に冷静にあいつに言い放ったことを覚えている。それからというもの、着信履歴には恋次恋次恋次恋次…メールボックス恋次恋次恋次恋次…
「違う、!!ミヨ子が遊びだったんだってば!お前が本命だよ!もう一度やり直そう!」
「…そんな感情入れて読むなよ」
修兵がメールを読み上げる姿は酷く滑稽だ。ていうか人の携帯覗くなよ。修兵の手からそれをとってパタンと二つにたたんだ。
「そーいやあたしらってメールとかしないよね」
「んー、そうかも。特に話したいこととかねぇし」
今のは興味がないから、嫌いだからとかそんなんだからじゃない。話したいことは会ったときに全部話すから。あたしらは電波なんか通さなくたっていい。修兵、あんたってすごく不思議な位置にいるよ。
「あのねー、この前あいつの携帯にキティちゃんがぶら下がってたんだー」
それはミヨ子からのものだったのかもしれない。思えばあたしはあいつのことを何も知らない。いつも聞かれてばっかで。なぁ、ねぇ、はさ。知り合ったのは…修兵の紹介だった。悪いな。釘刺しとくわ、と彼は謝る。あたしはいつも何故か修兵のせいには出来ない。…なんで?
「自転車後ろ乗せて」
「えー、体重減らしてからにしてくれよ」
「ひどいなー失恋したてのレディーに対して」
「誰がレディーだ、誰が」
行くぞ、と言って教室の電気をターンオフ。結局後ろに乗せてくれる彼はなんて優しいんだろう。俺フェミニストだから。その一言が余計なんだよねぇ。修兵はゆっくりとペダルを漕ぐ。肌に感じる風はちょうどいい。
「なんでオンナがいないのさー」
「えー?」
「なんでこんなにもかっこいいひさぎしゅうへいくんにオンナがいないんでしょー!」
「そりゃアレだろ。俺はお前のお守りで精一杯なのさ」
「あたし子供かよ」
「子供だろ」
「子供じゃないよ」
「そーゆうとこ子供」
「違うよ。知ってるもん、あたし」
「何を?」
「ひみつ」
「何だよ、教えろよ」
知ってるんだよ。本当はあたしはあんたのことが大好きで。ただ言い出せなくって。言ったらせっかくいい位置にいるのに、もう話してくれないんじゃないかなんておもうの。怖いんだよ。お化けやゴキブリ以上に怖いの。
「俺とお前の仲じゃん、教えなさい」
「どんな仲だよ」
「うーん…名前なんかねぇよ」
肩書きなんかいらないし、なんて。たまにこの人はもっともらしい言葉を言ってあたしを困らせる。言い切っちゃうとこに男気を感じてしまうよ。ねぇ、修兵。あんたとならやっていけそうだよ。ねぇ、返事して。すがる人はあんたしか、
「なんか言った?」
「ううん」
「なんにも」
腰に回した手を離した。おい、危ないぞ。だってしょうがないでしょう。目から溢れ出たものは手で拭きとらなきゃあんたに見られてしまうから。
家に帰ったらあいつに電話しよう。あたしなしで元気?って。
(実は連載だったりします…20050427)
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