私は大地というものをこの両足で踏んだことがありません。これが何を意味するかお分かりでしょうか。私の足は決して汚してはならない。私の顔は庶民に晒してはならない。畳のお座敷の上でお茶や華を習い、はたまた書道をし、地に足をつけることなく一生を終え永い眠りにつくのです。



そんなつまらない女のために男たちは尽くしてきます。ある者は花束を抱えてやってきたりある者は称号を自慢したり愛を語ったり…顔も知らぬ相手によくここまでできるものですね。そんな中、興味深い男性、貴方が現れたのです。当然ながら朽木という名は知っていました。わたしはまた家柄で売ってきたのではないかと思ったのです。しかし貴方は…わたしは笑ってしまいそうになりました。あまりにもそれは、









                 末摘花









「私と共に来い」


来ぬか、ではなく来い。好奇心からわたしはこのお方とお会いしたくなりました。わたしが男の方に口を聞くなど滅多になかったので側近はさぞかし驚いたでしょうね。


「わたしに大地を踏ませて下さるならばついて行きましょう」







                    *






月が綺麗な夜でした。わたしはこの日の月を忘れることはありません。その満月に照らされた横顔も同じ。 静まり返った屋敷の中、物音がしたのでそちらを見やると貴方の澄んだ美しい声がしたのです。


「今日は星夜だ」


わたしはほぼ反射的に簾を動かし、そして差し出された手をしっかりと握り締めました。引き寄せられた先にいた貴方。声と同じく白く澄んだ美しいお顔。もはや高鳴る鼓動を沈める術などわたしにはありません。


「貴方を、待っていました」






                    *





地というものはおぼろげな記憶の中の母という存在に似ていました。


「これはツツジでしょうか?」
「あぁ…」


花というものをこんなにも間近の見たのは初めてのことでそれに触れることに最初は躊躇していましたが貴方のその指のように真似て触れてみました。優しい貴方とは違い、わたしに触れられた花はそっぽを向いてしまいました。






月は青白い光を放ち、この世界には貴方とわたし、二人だけのようでした。貴方を独り占めしたい。そんなこと、できるわけないのに。こんな気持ちは初めてでした。










他人に名を呼ばれるのは久しかったので耳を刺激され、聴覚に狂いが出そうでした。






「私と共にこい」


「…全く、貴方は光源氏のようなお方ですね」



こんなにも容易く心を奪っていく。貴方は微笑を浮かべてわたしの手をとり歩き出しました。












20050720 初めてのですます調。雰囲気を変えられたらなぁと思い。



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