夏祭りへ連れて行く相手といえば毎年、友達の柚子だった。
なのに今年は「彼氏と行くからごめんね」とか言って捨てられてしまった。
ちくしょうめ。友情より恋愛を選ぶのか!
あげくの果てには「あんたも男作りなさいよ」とか言われた。
全く、余計なお世話だ。
星に願いを君との愛を
ともあれ、屋台の中を独りで歩くのがこれほど淋しいものとは思っていなかった。
擦れ違うのはイチャイチャカップル。あぁ、あたしって憐れね。
そんなことを考えていたら人とぶつかってしまった。
「あ!すみません」
「いや…ってじゃん」
あたしの名前を呼んだその人は やっぱり。修兵先輩だ。
「何だ、お前一人か」
「ええ。友達に振られちゃって。先輩こそ彼女に振られたんですか?」
「ビンゴ」
「え、あ、すみません」
「いーやいいよ。祭りで気分転換しようと思ったんだけど…逆にキツイな」
「あたしもです」
「よかったら一緒に回んねぇ?独り身コンビで」
「…いいですよ。独り身って響きが妙に悲しいですけどね」
「まあそう言うなよ」
修兵先輩と二人きりで行動することはそう珍しくない。
でも不思議な鼓動に包まれていくのは先輩の浴衣姿と繋がれたこの手のせいなのだろうか。
「はー、食った食った!」
「いくらなんでも食べすぎです」
「気にするな!」
「太った先輩なんて見たくありませんよ」
「美しい筋肉?」
「ぜい肉の間違いじゃないですか?」
河原では花火が上がっているというのに何故あたしたちは肉の話をしているのだろうか。
色気のカケラも無い。いや、この雰囲気の中であっては困るのだけど。
意味もなく水の入った紙コップを少しだけへこませた。
「どっちにしろ、脂肪のついた修兵先輩の後なんてかっこ悪くてついていけませんよ。女性ファンも減るでしょうね」
「おぉ、そりゃ困るな」
「でしょ?」
「でもよ、俺が太ったとしてもはついてきてくれるんだよな」
先輩の何気ない一言であたしの心臓はえらいことになってしまった。
絶対、顔が赤い。先輩は花火に見入っていて気づいてないけど。
「な、んでそう思うんですか…?」
「チャンは先輩っ子だからねー」
違う、先輩のことが一人の男の人として好きだから。
そう、否定したかった。けれど、持っていた紙コップの水と一緒に、すべて、
飲 み 込 ん で し ま っ た。
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実は修兵初悲恋だったりするかも。
20040831