光栄な話だった。蹴る理由などどこにもないくらいなのにあたしは迷っている。



















「今、何と?」
「十一番隊の更木がお前を欲しがってる」
「異動ですか」
「答えは今すぐにじゃなくてもいい」






じっくり考えろ、と言われても。
指名してくださったのは女の隊員なんて滅多に受け入れないあの更木隊長。そんな中選ばれたんだからきっと今より昇格もするし、生活も変わる。この上ない話だと思うのだけれど。







「俺はいい話だと思うけどな」
「それは阿散井くんが男の子だからでしょ!私は反対よ、ちゃん」
「桃ちゃん…」
「私は嫌。ちゃんが辛い稽古をするなんて」
「でもあの人は相当気に入ってるんだぜ?お前のこと」
「阿散井くんは黙ってて!」
「(……)」







十一番隊というと怖い、とか野蛮だとかそんなイメージがある(実際もそうなんだろうけど)でも本格的に腕を磨く大きなチャンスだ。あたしがデスクワークに向いていないということを更木隊長は見抜いていたのかもしれない(たぶん)
けれどこんなに決めかねているのはここに引きつけられる何かがあるからであって。きっとそれは、 あなたのせい



















「どうした、ボケッとして」
「あ、いえ」
「じっくり考えろとは言ったがな、考え込みすぎだ」







俺が入ってきても気づかないんだからな、と日番谷隊長は苦笑した。いつからいたんですかと聞けば、だいぶ前だと返ってくる。どれだけボケッとしてるか観察してたんだよと窓を開けた。





「声をかけてくださいよ。あたしがまるでアホみたいじゃないですか」
「最初からだろ」
「(ヒドイ!!)…隊長はどうなんですか」
「は?何を(俺はアホじゃねーぞ)」
「(そんなこと聞いてません)あたしが異動するかどうかってこと」





隊長の体がぴくっと少し動いたのは気のせいだっただろうか。長い沈黙のあと、ゆっくりと口を開いた。









「まぁ悪い話じゃねーだろう。あの更木が選んだわけだしな。三番や十二番よりは心置きなくお前を預けることができる。寂しくなるがそれもまたいつかはやってくることだ。お前の好きなようにしろ」









うちの隊長はチビで生意気で態度が悪いと思われがちだけれど、本当はこんなにも部下思いの優しい人なんだ。小さいけれど大きな存在。そんな彼が好きだった。









「…あたし、行ってきます。十一番隊」





今までありがとうございましたとかそんな硬い言葉はいらない。帰るべき場所はここだから。隊長は「預ける」と言ってくれたから。頑張れよと笑った彼にあたしのことが恋しくなったら会いに来てくださいと言ってみたりした。そしたらお前が来いと返されたのだった。

















(春は出会いと別れの季節。やばい。最近日番谷くんが熱い。  20050329)







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