出会いは彼が連れの若い男の子と二人であたしの勤めるうどん屋へ入ってきたときだった。連れの子の茶髪とは対照的な黒の髪。ご注文は、と問うたあたしはしばらくその整った横顔に見とれてしまった。




「素」
「じゃあ俺はきつねにしまさァ」
「かしこまりました」





一目惚れはしない体質のはずだ。友達と街を歩いていても「今すれ違った人格好よくない?」とかいう話は全く出ないし、会計を済ます男の一人一人を見ていられる程暇でもない。そんなあたしを彼は釘付けにした。昇る煙草の煙や落ちる灰までも目で追ってしまう。据えられたその指に、触れてみたいと思った。











「土方さん、先に外出てますんで」
「おい、てめぇっ!」





若い男の子はちらっとあたしを見て口元に笑みを浮かべた後、通りへ出た。土方と呼ばれた残された彼はチッと軽く舌打ちをして渋々二人分の勘定を手渡す。そのやり取りにあたしは思わず笑ってしまう。
しまった、と思ったときには既に遅かったらしく彼の眉間には皺が。怒らせてしまったのだろうか。





「してやられましたね」
「…えぇ。手のかかる部下で」





彼は苦笑いして言った。
会話は、それだけだった。



おつりを渡すと彼の姿は連れの子を追って人ごみに塗れて見えなくなった。いなくなった通りをじっと見つめて、また来ますようにと願った。













(土方さん。なんかうまくいかない 20050203)







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